世の中に あやしきものは
あの人はなぜわたしの教師なのか。
なぜわたしはあの人の生徒なのか。
あの人はなぜ結婚しているのか。
なぜわたしは未成年なのか。
これらの問いの答えはひとつ。わたしとあの人は結ばれる運命にないってことだ。
あの人の声が好きだ。朗々としていて、教室のどこにいたって聞こえてくるあの人のこえ。心に直接響いて震える低音に耳を傾けていると、心地よくて泣けてくる。あぁ、わたしはこの人が好きなんだなって。
あと1年。1年経って仕舞えば、わたしとあの人をつなぐ枷は消えるはずだ。教師と生徒というしがらみ。でも、わたしには、この想いを伝える手段がない。わたしが卒業したところで、あの人には奥さんがいて、わたしは元教え子というカテゴリーに入ったまま。わたしが「恋愛対象」というステージに立つことは一生無い。それなのに、分かっているのに好きなのだ。
わたしの「好き」はどうしてこんなにも面倒くさくて、それなのにどうして、わたしの「好き」はこんなに幸せなのだろう。
テストの答案用紙を渡される。それだけで胸がいっぱいになる。わたしの書いた答えを、あの人が回答してくれて。わたしのためだけにあの人が時間をかけてくれたこと、たったそれっぽっちの事が嬉しくてたまらなくなる。職員室に押しかけて、「ここがさっぱり分からないんです」なんて心にも思ってないことを言って教科書とノートを開いても、あの人は何故か嬉しそうに微笑んで教えてくれる。ただ会いたいがための口実だったとしても。
わたしのためだけの、あの人のこえ。そんな些細なことが幸せでたまらなくて。好きなのだ。それだけで良いのだ。あの人が好きだ。この関係を、それ以上は望まない。ただ、幸せに浸らせて欲しい。この関係がどんなに不毛なものであったとしても、わたしにとっては1つの幸せのカタチなのだ。
だからわたしはこの恋をやめない。わたしの胸の中で、わたしの恋を守り続ける覚悟ならある。だからせめて、あと1年だけは幸せに浸らせてください。
どうか、神さま。