分析サイト

新人賞受賞に向けての分析

月夜よし

f:id:machiko__waka:20180219231221j:image

 

酔っちゃった、なんて今君に言ったらなんて返されるのだろう。は? なんて怪訝な顔をされるに違いない。「香織さん、顔も白いし、意識もはっきりしているし、それで酔ってるなんて言えるんですか?」なんて冷静に返されるのが関の山だろう。
そんなことを考えている間にも、司くんの話は止まらない。同期の中で飛び抜けて負けず嫌いで、意欲に燃えている司くんの話を聞くのは楽しい。けれど、司くんの話を聞いていると、とりたてて秀でているところも、熱意もない私という存在は、溶けて消えてなくなってしまいそうになる。司くんの視線は私を突き抜けて、未来を見ている気さえするのだ。そのくらいに鋭い眼光が私はとても恐ろしくて、それでもそのはっと驚くほど透明な光を見ずにはいられない。
司くんは、私のことをどう思っているのだろう? 職場でよく顔を合わせる同期? 司くんから見たら、向上心のない私のような存在は、同期の中でも取るに足らないのかもしれない。こっそり司くんに憧れているだけの、ちっぽけな女。私の淡い好意なんて、きっと司くんには筒抜けなのだろう。
アルコールが入った司くんの目は赤い。頬も赤くて、いつもキリっとしている目つきは心なしかトロンとしている。司くんの頬に触れたい、と思った。ここが職場の飲み会であることなんて忘れて、隣にいる司くんに触れたい、と思った。酔っちゃった、なんて言い訳すれば良い。そうしたら、彼はなんて言ってくれるだろう。少しは彼に印象を残すことが出来るだろうか。酔っちゃった、なんて言葉で君をかき乱してみたい。今はふわりと緩んだその視線を捕まえて、どうかその先を期待させて。

世の中に あやしきものは

f:id:machiko__waka:20180218223738j:plain  


  あの人はなぜわたしの教師なのか。

  なぜわたしはあの人の生徒なのか。

  あの人はなぜ結婚しているのか。

  なぜわたしは未成年なのか。


  これらの問いの答えはひとつ。わたしとあの人は結ばれる運命にないってことだ。


  あの人の声が好きだ。朗々としていて、教室のどこにいたって聞こえてくるあの人のこえ。心に直接響いて震える低音に耳を傾けていると、心地よくて泣けてくる。あぁ、わたしはこの人が好きなんだなって。


  あと1年。1年経って仕舞えば、わたしとあの人をつなぐ枷は消えるはずだ。教師と生徒というしがらみ。でも、わたしには、この想いを伝える手段がない。わたしが卒業したところで、あの人には奥さんがいて、わたしは元教え子というカテゴリーに入ったまま。わたしが「恋愛対象」というステージに立つことは一生無い。それなのに、分かっているのに好きなのだ。


  わたしの「好き」はどうしてこんなにも面倒くさくて、それなのにどうして、わたしの「好き」はこんなに幸せなのだろう。


  テストの答案用紙を渡される。それだけで胸がいっぱいになる。わたしの書いた答えを、あの人が回答してくれて。わたしのためだけにあの人が時間をかけてくれたこと、たったそれっぽっちの事が嬉しくてたまらなくなる。職員室に押しかけて、「ここがさっぱり分からないんです」なんて心にも思ってないことを言って教科書とノートを開いても、あの人は何故か嬉しそうに微笑んで教えてくれる。ただ会いたいがための口実だったとしても。


  わたしのためだけの、あの人のこえ。そんな些細なことが幸せでたまらなくて。好きなのだ。それだけで良いのだ。あの人が好きだ。この関係を、それ以上は望まない。ただ、幸せに浸らせて欲しい。この関係がどんなに不毛なものであったとしても、わたしにとっては1つの幸せのカタチなのだ。


  だからわたしはこの恋をやめない。わたしの胸の中で、わたしの恋を守り続ける覚悟ならある。だからせめて、あと1年だけは幸せに浸らせてください。


どうか、神さま。